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水戸地方裁判所 昭和26年(行)3号 判決

原告 斎藤清左衛門

被告 安飾村農業委員会

一、主  文

茨城県新治郡安飾村安飾村農地委員会が別紙目録記載の農地について昭和二十三年四月三十日樹立した買収計画を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

第一当事者の申立

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

被告訴訟代理人は本案前の申立として訴の却下並びに本案につき請求棄却の判決を求めた。

第二当事者の主張

一、請求原因

(一)  被告の前身である茨城県新治郡安飾村安飾村農地委員会は昭和二十三年四月三十日原告所有の別紙目録記載の農地(以下本件農地と称す)及びその他の農地について自作農創設特別措置法第六条の五にもとずく買収計画を樹立し(但し他の農地については同法第三条第一項第二号を適用したものもある)買収期日を同年七月二日と定め、同年五月四日以降十日間を縦覧期間として公告した。原告は同年五月十三日同委員会に異議を申立てたところ、同月十七日本件農地以外の七筆について異議を容認し、本件農地については異議を却下する旨議決し、同月十九日附「農地買収計画に対する異議申立について」と題する書面に決定書謄本を添えて同月二十九日原告に交付した。そこで原告は更に同月三十一日茨城県農地委員会宛訴願書を安飾村農地委員会に提出したが、右訴願に対しては未だに何等の裁決がない。

(二)  右の買収計画は次の理由により違法である。即ち本件土地は他の三筆と共に予ねてから原告が訴外藤田亥之松に賃貸しておいたところ、昭和二十年十月三十日賃貸借を合意の上解除し、爾来原告において自作しているものであり、自作農法第六条の五に該当しない。よつて右買収計画の取消を求める。

二、答弁

(一)  本案前の抗弁

原告は本件について訴願を経由していない。即ち原告主張の昭和二十三年五月三十一日なした訴願はその後取り下げられたし、又茨城県農地委員会には昭和二十四年六月頃原告から「陳情書」と題する書面が提出されたことはあるが、訴願書が提出された事実はない。そして訴願を経由しないことにつき正当な事由もないから本訴は不適法である。

(二)  本案に関する答弁

原告主張の(一)の事実は訴願に対する裁決がないという点を除きその余を認める。同(二)の事実中賃貸借契約の解約の日時の点は否認するがその余は認める。右の賃貸借が解約されたのは昭和二十年十一月二十三日以後である。

三、本案前の抗弁に対する原告の陳述

安飾村農地委員会を経由して茨城県農地委員会に提出した原告の訴願は取り下げたものでなく、事実上安飾村農地委員会の斎藤宗二郎委員と宮本義行書記が訴願書を原告方に置いていつたに過ぎない。仮に原告がその際右訴願を取り下げたものとしても、原告はその後十日余のうちに右訴願書を茨城県農地課に再び提出したのであるから、訴願期間を経過したことにつき宥恕すべき事由があり、右の訴願は適法である。しかも原告は昭和二十四年四月十五日直接茨城県農地委員会に再度訴願書を提出したのに未だ裁決がないのであるから本訴提起は適法である(証拠省略)。

三、理  由

請求原因(一)の本件買収手続の経過事実のうち原告が昭和二十三年五月十三日安飾村農地委員会に茨城県農地委員会宛訴願書を提出した段階までは当事者間に争がない。

一、被告の本案前の抗弁について

被告は、右の訴願は一旦提起されたが取下となり、その後原告は改めて訴願を経由せず、且つ経由しないことについて何等正当な事由もないから、本訴は不適法である旨主張するので先ずこの点について考える。証人斎藤宗二郎の証言及び原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証、右斎藤証人及び証人郡司実、宮本義行の各証言(いずれも一部)並びに原告本人尋問の結果(一部)を総合すると、安飾村農地委員会委員斎藤宗二郎と同専任書記宮本義行は同委員会々長郡司実の指図を受け前記訴願の取下をさせるため、訴願書(訴願申立書と題する書面で甲第三号証の原本である。以下同じ)が提出された昭和二十三年五月三十一日から幾何も経ずして同書面を原告方に持参し同人に対して、訴願を提起した本件農地その他については買収から除外するよう努力するからとて執拗にその取下を求めたので、原告としては右両名の努力によつて果して買収から除外して貰えるかどうか疑念を抱きながらも、同人等の再三の求めを拒むことができず、遂にこれに応じて訴願を取り下げることとしたが、その後も右の疑念は解消し得ず、十日程経てから右両名が返戻して来た訴願書を茨城県農地委員会に提出したところ、訴願期間を経過しているという理由で受理を拒まれ返戻されたこと、この第二回目の訴願は訴願期限である昭和二十三年六月十二日を経過した後になされたものであることが認められる。(前記各証言並びに本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。)

訴願法第二条第十一条によれば、訴願は行政処分をなした行政庁を経由して上級行政庁に提起しなければならず、この経由庁は訴願書を受取つた日から十日以内に弁明書及び必要文書を添えて上級行政庁に発送しなければならないことになつている。従つて前記訴願書の提出を受けた安飾村農地委員会長は遅滞なく委員会を招集し、その議決を経た弁明書等を訴願書に添付して茨城県農地委員会に発送すべきであり、他方村農地委員会としては更に審査をして当初の買収計画を取り消し又は変更する機会が与えられるわけである。ところが前掲証拠(いずれも一部)並びに本件弁論の全趣旨を総合すれば、同委員会が本件買収計画を樹立するにあたり本件農地その他の昭和二十年十一月二十三日当時における耕作者について予め充分調査を尽さずに自作農法第六条の五を適用して本件買収計画を樹立したため、郡司会長としても右計画について茨城県農地委員会の批判を受けることを欲しなかつたという事情もあつて、前記村農地委員会に一度も右訴願を付議しないままに、唯安易を求めて前記のように原告に対し訴願の取下を勧告し、原告がこの勧告に応じて訴願を取り下げるに至つた事情が認められるのである。前記第二回目の訴願は訴願期限を若干経過した後になされたことは前認定の通りであるけれども、抑々右の勧告に因る訴願の取下がなかつたならば、第二回目の訴願の提起は必要でなく訴願期限の徒過ということもあり得ないわけである。換言すれば、第二回目の訴願の訴願期間に関する瑕疵は村農地委員会当局の著しく誠意を欠いた前記処置に因るものと断ずる他はないのであつて、又訴願期間を経過したといつてもそれはせいぜい数日に過ぎず、このような場合は正に訴願法第八条にいわゆる訴願期間の経過につき宥恕すべき事由がある場合に該当するものと解するのが相当である。尚右第二回目の訴願は該訴願書を直接茨城県農地委員会に提出してこれをしているが、先に安飾村農地委員会に提出した訴願書は前に掲げたような事情のもとに還付されて居り、最早経由手続を経ることは一応不可能と考えられる事情にあつたのであるから、このような経由手続の瑕疵は訴願の違法原因とはならないものと考える。

そうすると、右の訴願には被告の主張する様な違法の点はなく、県農地委員会としては前記訴願を受理し裁決をなすべきであつたのであり、原告において訴願の裁決を経ずして本訴を提起したことにつき正当の事由があつたものというべく本訴は適法である。

二、本案について

そこで更に進んで本案について判断を進める。訴外藤田亥之松が予ねてより原告から本件農地を他の二筆の農地とともに賃借小作して来たことについては当事者間に争がない。被告は右賃貸借契約は昭和二十年十一月二十四日以後において合意解除せられた旨主張し、証人宮本義行、宮本弘の各証言中これに副う部分もあるけれども後掲証拠に比照し信用できない。却て証人藤田亥之松、藤井藤太の各証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告は以前は田畑数町歩を耕作していたことのある大百姓であつたが、昭和十八年原告が神経痛を患い、息子の応召というようなこともあつて、耕作反別を減らし他に貸し付け、一時は耕作反別七段位になつたこともあるが、終戦後その耕作反別を回復しようと思い昭和二十年十月中本件土地の小作人藤田亥之松にその返地を求め、藤田は当時耕作反別が約二町もあつたので、快くこれを承諾し、同月三十日頃原告と藤田との間に賃貸借が合意解除せられて原告に返還され、同年度の小作料は従前の例に従い翌二十一年一月頃支払われた事実が認められるのである。従つて本件農地については自作農法第六条の五第一項に規定する事実の変更は存しないのであるから、本件買収計画はこの点において違法たるを免れない。

従てこれが取消を求める原告の請求は正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 多田貞治 服部一雄 石崎政男)

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